「”景色”だと思っていた山が、”行ける場所”になりました。」
神秘的な場所で、食べたり、調理したり。
”山からいただく”、そんな気持ちになるという。
大谷さんは香川のさぬき平野の出身だ。山は近くになかった。でも、田んぼはあった。
ほうれん草に土が付いている。おやつはおばあちゃんが作ってくれた葉ゴボウの天ぷら。
そんな風景に親しんできた。
「でも、開発が進んでそういう風景が失われていっているんです」
とさみしそうに仰った。
そんな中、妻の実家がある能勢に出会い、彼女の愛郷心に感心した。風景が懐かしく見えた。
素朴な愛郷心と風景をつなぐのが、食の経験という考えが線を結んだ。
カエルがそこいら中で跳ねる。
樹齢千年を越える大ケヤキがそびえ立つ。
田んぼに囲まれ、時折山から風が下りてくる。
「店を始めて2年になりますが、” この景色はいつまで享受できるのだろうか“という懸念があります。そのために、」
大谷さんは、選んでいる、と言った。
風土への思いを託して地のものを選ぶ。
高くても、手間がかかっても、選ぶのは”なくさない”ためだ。
「良くも悪くも私たちが選んだものは残り、選ばれなかったものは無くなっていきます。良いものでも、選ばれなければ消えていってしまうんです。」
だから、選ぶ。
稲刈りの後のにおいや手間のかかるおいしさを残すために。
「最近、あるイベントでお酒をテーマにしていたのですが、それをきっかけに”発酵”に関心を持ちました。ただ焼く、煮るだけと違い、発酵は気が遠くなるほど長い時間をかけて作り上げられてきた文化だと思います。この土地には、この土地の発酵がある。」
味噌。
醤油。
みりんに、お酒。
シンプルに味わえる有機調味料を使っているという。
そうか、ノマディックさんのしっとりと深い味わいは、そんな選択の結果なんだなあ、と思う。
「例えば、静置といって、撹拌せずに時間をかけてゆっくり発酵させることでおいしくなる手法もあるんですよ。」
残したいと思うものを選ぶ。
“自分たちの食の選択が、結果的に自分たちの好きな風景を残すことにつながっていけたら“という価値観をより多くの人と共有したい。
それは、簡単なように見えてとても大変なことだと思った。
大谷さんが選んだものが、周りの人からも選ばれなければならない。
全てを選ぶのは難しいかもしれないけれど、私も残したい景色を選んでいきたい。
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ぜひ故郷の風景を思いながら
味わってください!
ノマディック
072-743-0290
nose-nomadik@icloud.com
能勢町野間稲地105
Interviewer:能勢妙見山観光協会 植田観肇 吉井麻里子(記)